今春は…

今春は、花見の宴は開かれず、桜の花は人知れず咲き散っていくのでしょうか。古今和歌集に次のような紀貫之の歌があります。

「さくら花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 波ぞ立ちける」

桜の花びらがひらひらと風に舞う様子が、水面に波が立つようだと表現しています。愛する人を亡くした悲しみで、心が波立つのと似ているように思います。
亡き人を思うと、悲しみが波のようにくり返し押し寄せてきます。波紋は波紋を呼び留まることはありません。苦しみの尽きることのない不安に押しつぶされそうです。

現在、新型コロナウイルスの感染が拡大し人々の心は不安でいっぱいです。

愛する人を失った悲しみを抱えながら、不安な日々を過ごさなければならない辛さは如何ばかりでしょう。

NHKの「こころの時代」で清水真砂子さんが『ゲド戦記』の中の文章を紹介されていました。
“All the hope left in the world is in the people of no account.”

このような状況にあって、この世界に残された希望は私達一人一人の中にあり、希望を託されているのは名もなき私達一人一人なのだというのです。

私が亡き人を思うとき、失くしたくない想いがあります。共に生きた喜びと死別の悲しみ、それら全てを、たとえ辛くても失くしたくない希望を私は持っています。亡き人を偲ぶ時として、今を過ごそうと思います。
(M.S.)